摩訶不思議ツーリズムの確立に向けて
〜摩訶不思議「新耳袋ラリー」を事例として〜
JTB西日本EC営業部
渡部 顕



T はじめに

IT革命など科学の発展とともに逆に精神世界に対する関心が高まり、それは映画や小説、ゲームなどのバーチャルの世界で世代を問わない流行となってる。またバブル時代を経た現在は生活者の鑑識眼が肥え、あらゆるものに対し本物への志向が高まり、それはバーチャルなものに対してもリアルで体験・追及したいというニーズを産み出す。このバーチャルからリアルへの流れは小説・映画・ゲーム「陰陽師」の人気により安倍晴明にまつわる神社などが観光地になったり、東京はとバスが主催する観光バスツアー「講談師と行く四谷怪談観光」に人気が集まることなどの現象に表れている。
しかしながら、このニーズを満たす素材は観光・イベントに関してあまりにも少なく、体系だっていないという現状にある。
一方、歴史国家日本において寺院や景勝地などの観光地は、地域の歴史に裏打ちされたある意味でファンタジーと言える不思議な伝承や芸能が数多くあるが、その多くは画一的な歴史解釈に隠され、その面白さを引き出せていないのではないだろうか。
そこでJTBでは、さまざまな歴史、伝承、遺跡に隠された日本のファンタジーを「摩訶不思議」ブランドのもとに幅広い層に訴求する観光・イベント素材として活用することにより、新しい観光需要の掘り起こしはもちろんのこと、地域活性化する試みへのプロジェクトチームを作り、その具体的な試みとして奈良商店街活性化事業「新耳袋ラリー」の企画・運営を手がけた。
以下、この企画・運営を通して我々の取組みを紹介する。

U 摩訶不思議ラリー
1 企画経緯
TMO(タウン・マネージメント・オーガニゼーション)を導入する「奈良市中心市街地活性化研究会」の発足の目的でもある商店街の活性化に向けた展開として、まず研究会に参画する8商店街の合同活性化イベントの実施により、組織の求心力を高める必要性があることから当事業がスタートした。

2 企画趣旨
企画立案にあたり、その方向性を世界遺産を3つも持つ国際観光都市の中心地にある観光地としての側面、地域の人々に愛される商店街として地域活性化の中心的役割を果たす側面の双方向において価値を高めることを確認した。


観光価値
@ マンネリ化する観光への、新たな取り組み
*「ビジット・ジャパン・キャンペーン」によるアジア(韓国・中国・台湾など)欧米の人々へのインパクトある観光素材としても活用可能

地域活性化価値
@ 地域間交流
ファンタジーを切り口としたまちづくりを行っているまちとの交流を図り、新しい
地域間ネットワークを形成する。
A 世代間交流
地域に伝わるファンタジーを地域の古老が子供たちに話して聞かせることによって、世代間の交流を図ることができる。
B 地域文化とのふれあい
地域のファンタジーを探求し、発表することにおり、その地域の文化、伝統、歴史とより深く触れ合うことができる。
C 市民参加によるまちづくり意識の高揚
開催されるイベントに企画段階から多くの市民や市民団体に参加してもらうことににより、町づくりに対しての意識付けを行うことができる。


この2方向からのアプローチにより、国内外から訪れる観光客と地域住民に商店街そのものの良さを体感いただき、さまざまな店舗(商売)及び店主、店員とのふれあいを感じていただける機会づくりの場を提供することをイベントの目標として掲げた。
この目標を達成する手法として、まず8商店街に足を踏み入れていただき、商店街を体感いただく仕掛けとしての“ラリー方式”を採用し、特に商店街が賑わいを見せる猿沢池の伝承に因んだ『采女祭』を取り込んでの怪談をテーマとした。
国内外を問わず現代人には、歴史・伝承をそのまま伝えても難しいと敬遠されるが、それを怪談という切り口にて表現することにより歴史・伝承のファンタジー的側面が新鮮な訴求力を得ると考えた。 単なるスタンプラリーやクイズラリーとの差別化を図る為に、当企画においては、『新耳袋』全10巻の共著を持ち、「怪談之怪」を京極夏彦氏らと立ち上げたジャパニーズホラーの先駆者・中山市朗氏に怪談の執筆とラリーの監修を依頼した。これにより従来の商店街イベントにない“怖い”を本格的に追求したエンターテイメント性を持たせ、より注目度の高いラリーを作り上げることができた。現在、「リング」「呪怨」などの映画がハリウッドでも作られジャパニーズホラーが世界的にブームであることから、日本の“怖い”が来日観光者にも訴求できることもテーマ選択の理由であった。
企画の具現化にあたってはJTBの観光力(PR,集客、手配)、ピュアサーカスの企画力、大滝エージェンシー・中山氏のコーディネート力の結集を図り、従来の常識や業界の枠を超えた斬新さのを追及を目指した。

企画の狙い
@ 商店街の伝承・伝説を怪談の切り口で紹介することによりより多くの人に訴求。
A 話題の作家・中山市朗氏による怪談執筆・ラリー監修で注目を高める。
B 8商店街それぞれの怪談をもとに商店街を巡り、触れ合いの機会をつくる。
C 「采女祭」の時期にイベントを実施し、臨場感を高めた中で、祭りの
  観光客(行楽客など)を取り込み、集客を図る。
D 8商店街初の合同イベント何により各商店主たちのモチベーションを高め、今後の活性化事業への取組み意欲を高める。


4 実施概要
■タイトル  摩訶不思議 新耳袋ラリー
■実施時期     
2005年9月17日(土)〜25日(日) 9日間
 ※「采女祭」は9月18日(日)に開催。
■実施場所     
東向き商店街/もちいどのセンター街/三条通りショッピングモール/
 小西さくら通商店街/橋本商親会/東向北商店街/下御門商店街/花芝商店街(順不同)
■参加対象     
地元市民(商店街利用顧客)及び観光客(県外からの行楽客)
■イベント形態   
ウォークラリー
■実施目的     
1) 商店街の活性化事業の一環として若者や女性層を中心に多くの人々に商店街を認知させる。
2) 8つの商店街に実際に市民や観光客に足を運ばせ、集客を高める。
3)商店街の合同イベントとしての開催にて活性化への意識を高める。
■内容    
8商店街の商店またはイベントマスコット采女ガールにより購入(1部100円)したラリーマップに記載された中山市朗プロデュースによる8つの商店街に纏わる怪談“新耳袋”を読んで頂き、その話に関る場所(チェックポイント)を探し当てるウォークラリー。ラリー完歩者の中より抽選で豪華景品が当たる。参加者は確実にチェックポイントとなる8つの商店街の全てを巡る必要があり、それぞれに推理し憶測する楽しみと共に、商店街の各商店を見て周りふれあいを持つ機会が得られる。 




5 実施結果
 準備期間が短く、また総費用が限られていたことから事前告知が殆どできなかった。その為、参加者を当日来場者に絞り込むこととなったものの、全商店街を巡るラリーは平均で3時間は必要なことから時間的に余裕のない場合が大半である当日来場者からの参加者誘導が難しく、結果的に参加総数が伸びなかった。集客は今回の企画の基盤となる目的であり、大きな反省点として残った。
 しかしながら8商店街の合同活性化イベントとしての実施により所属500店舗の当事者意識を高めることができたこと、マスコミの取材を通じて若い人や女性を中心に商店街の認知を高めることができたことに対し、主催者からは一定の評価を得た。

■参加総人数 859名
■参加者分析
・奈良県内: 85%  ・県外(近畿)10%  ・県外(その他): 5%
■パブリシティー
・新聞 
  産経新聞(奈良版)、読売新聞(奈良版)、毎日新聞(奈良版)、奈良新聞
  フジサンケイビジネスアイ、サンケイスポーツ
・テレビ
  奈良テレビ(「ざっくばらん」「なら!みち見聞録」) NHK(「きょうのトピックス」)

6 今後の展開
 今回のイベント制作・運営を通じて各商店街がそれぞれに地域の怪談を掘り起こし、主催者、イベント参加者双方に其々の立場で地域文化との触れ合いのきっかけを作ることができた。今後はこれらの怪談を活用し、地域活性化価値と観光価値を更に高めていく仕掛けが必要となる。そのひとつの手法として、視覚表現を使ったアートとして各商店街の怪談の中心となるモノや人をキャラクター化し、顔出し看板にて表現する手法を商店街に提案している。
これは怪談という文字によるコンテンツが、視覚表現のアートへその舞台を移すことでより広い層へ訴求を可能にする手法である。また、顔出し看板は単に一方的に視覚に訴えるだけでなく、見る側が顔を出すというアクションによりひとつの作品となる体験型アートであり、来場者との双方向コミュニケーションを求める商店街の目的に一致する手法ともいえる。この顔出し看板は8商店街全部の看板を並べることでインパクトのあるアートギャラリーとして展示することや、各商店街に設置してそれぞれの看板を撮影して巡るフォトラリーとして活用することも考えられる。
 更に将来的には各商店のオリジナル商品や包装紙などに開発したキャラクターを採用するなど直接的な営業貢献的側面も見出したい。

V 終わりに
 多くの商店街が大手GMSなどの進出の影響により、かっての繁栄を失いつつある。全国規模の大資本による料金や品揃えに対抗するためには、商店街の持つ地域ならではのコミュニケーション力を取り戻すことが最大の武器になるであろう。そのひとつのきっかけ作りに地域の伝承・伝説の掘り起こしは大きな役割を果たす可能性のあることを今回のイベントによって確認できた。
ただし、伝承・伝説はどの地域でもあるもので、その掘り起こし方としてその地域のオリジナリティーを付加するアートの活用手法が成功のポイントになると考える。このことは商店街だけでなく商店街を含む地域活性化や、同じく人の交流を求める観光施設・観光地にもあてはまる。JTBではこのコンセプトのもと本年10月に別府地獄めぐりの活性化をはかる団体旅行のイベントを実施し好評を得た。更に来年は京都・嵐山でも同様の団体旅行イベントを開催する予定にしている。
我々は今回のような伝承・伝説をアートを通して再生し、その地域にオリジナルな素材として人々のコミュニケーションと交流を生み出す試みをさまざまな場所・手法により行い、交流文化のひとつのスキームを確立したいと考える。さらに、この試みに継続性をもたせるためにもビジネスとしての基盤を整えていきたい。